オーストラリアで問題になった外来動物|ウサギ・ケイン・トード・野生猫の歴史

オーストラリアは、カンガルー、コアラ、ウォンバット、カモノハシなど、ほかの大陸では見られない独特な動物が暮らす国です。

ところが現在、この固有の生態系を大きく脅かしている動物の中には、もともとオーストラリアにいなかった種類が少なくありません。

ヨーロッパアナウサギ、ケイン・トード、野生猫、アカギツネ、野生化したブタ、シカ、ラクダ――。

その多くは、人間がオーストラリアへ持ち込みました。

しかも偶然入り込んだものばかりではありません。

狩猟を楽しむため、害虫を退治するため、ネズミを減らすため、家畜やペットとして利用するためなど、当時としてはそれなりの目的を持って導入された動物も多くいました。

ところが、オーストラリアの環境へ放たれた後に状況が一変します。

天敵が少ない。餌が豊富。繁殖力が高い。そして、オーストラリア固有の動物たちは新しく現れた捕食者や毒を持つ動物に適応していない。

こうした条件が重なり、一部の外来動物は大陸規模で広がってしまいました。

ウサギまで、オーストラリアでは環境問題になるんですか?
なります。かわいらしいイメージとは裏腹に、野生化したウサギは植物を食べ尽くし、土壌を荒らし、農業にも大きな被害を与えます。オーストラリアでは100年以上にわたり対策が続いています。

この記事では、特にオーストラリアの環境史を象徴するウサギ、ケイン・トード、野生猫の3種類を中心に紹介します。

なぜ導入されたのか、どうしてこれほど広がったのか、どんな動物が被害を受けたのか、そして2026年現在どのような対策が行われているのか。

その歴史をたどると、現在のオーストラリアが空港や国境で動植物の持ち込みに非常に厳しい理由も見えてきます。

目次:オーストラリアで問題になった外来動物(クリックで開閉)
  1. 外来動物とは?
  2. 外来種がすべて悪いわけではない
  3. なぜオーストラリアでは影響が大きくなりやすい?
  4. 1. ウサギ|13匹から大陸規模へ
  5. ウサギ自体はファースト・フリートでも来ていた
  6. 1859年、トーマス・オースティンが野生ウサギを放す
  7. 50年ほどで大陸の大部分へ
  8. ウサギが引き起こした被害
  9. 1950年には約6億匹
  10. 巨大なラビット・プルーフ・フェンス
  11. 1950年、ウイルスでウサギを減らす
  12. 次に導入されたウサギ出血病ウイルス
  13. 2026年現在も終わっていないウサギ対策
  14. 2. ケイン・トード|害虫退治のために導入
  15. サトウキビ農家を悩ませた甲虫
  16. 1935年、ゴードンベールで2,400匹を放す
  17. 肝心の害虫退治にはほとんど役立たなかった
  18. 最大の問題は強力な毒
  19. クイーンズランド州から西オーストラリア州まで拡大
  20. ケイン・トードに適応し始めた動物もいる
  21. ケイン・トードを全滅させる方法はある?
  22. 3. 野生猫|普通のイエネコと同じ種類
  23. 猫はヨーロッパ人の入植とともに到来
  24. ウサギやネズミ対策として猫まで放された
  25. 19世紀末には大陸規模へ
  26. 年間15億匹を超える在来脊椎動物を捕食
  27. 20種を超える哺乳類の絶滅に関与
  28. 野生猫と飼い猫はどう違う?
  29. 現在の野生猫対策
  30. ウサギ・ヒキガエル・猫だけではない
  31. 善意の導入でも結果は予測できない
  32. だからオーストラリアの検疫は厳しい
  33. 旅行者にも関係するバイオセキュリティ
  34. 外来動物の歴史から見えるオーストラリア
  35. よくある質問

外来動物とは?

外来種とは、本来その地域に生息していなかったにもかかわらず、人間の活動によって持ち込まれた生物を指します。

海外から来た生物だけとは限りません。

同じ国の中でも、本来生息していなかった地域へ人間が移した場合には問題になることがあります。

オーストラリアではヨーロッパ人の入植が始まった18世紀末以降、家畜、ペット、狩猟動物、害虫駆除用の動物など、さまざまな生物が持ち込まれました。

その一部が野生化し、現在の環境問題へつながっています。

外来種がすべて悪いわけではない

ここは混同されやすいところです。

「外来種=害を与える生物」ではありません。

オーストラリアには羊、牛、馬なども人間が持ち込んだ動物ですが、適切に管理された家畜は国の農業を支える重要な存在です。

問題になるのは、野外で定着・拡散し、生態系、農業、社会などへ大きな被害を与える種類です。

こうしたものを一般に「侵略的外来種」と呼びます。

ウサギ、野生猫、アカギツネ、ケイン・トードなどは、オーストラリアを代表する例です。

なぜオーストラリアでは影響が大きくなりやすい?

オーストラリア大陸は長い間、ほかの大陸から地理的に隔離されていました。

そのため、有袋類、単孔類、独特な鳥や爬虫類などが、ほかの大陸とは異なる生態系の中で進化してきました。

例えばオーストラリアの小型哺乳類は、猫やキツネのような捕食者と何百万年も共存しながら進化してきたわけではありません。

ケイン・トードの強力な毒についても同じです。

初めて遭遇したオオトカゲやフクロネコなどが「食べてはいけない相手」だと知らずに捕食し、毒で死亡することがあります。

さらにオーストラリアの乾燥地には、繁殖速度の遅い小型有袋類も多く生息しています。

こうした動物では、外来捕食者によって少数が毎年失われるだけでも、個体群が回復できなくなる可能性があります。

1. ウサギ|13匹から大陸規模へ

オーストラリアの外来動物史で、最も有名な失敗例のひとつがヨーロッパアナウサギ(Oryctolagus cuniculus)です。

今では農地や自然環境に大きな被害を与える動物ですが、導入のきっかけは非常に単純でした。

「イギリスと同じように、ウサギ狩りを楽しみたい」。

そのために放されたわずかなウサギが、後に大陸規模の環境問題へ発展します。

ウサギ自体はファースト・フリートでも来ていた

ウサギが初めてオーストラリアへ来たのは1859年ではありません。

1788年のファースト・フリートにも、食用や飼育用と考えられるウサギが積まれていました。

ただし、これらは野生へ放され、大陸中へ広がった現在の野生ウサギの直接的な起源とは考えられていません。

大規模な野生化の決定的なきっかけとなったのは、その約70年後のビクトリア植民地でした。

1859年、トーマス・オースティンが野生ウサギを放す

1859年、裕福な牧場主トーマス・オースティン(Thomas Austin)は、ビクトリア州ウィンチェルシー(Winchelsea)近郊のバーワン・パーク(Barwon Park)で暮らしていました。

イギリス出身だったオースティンは、故郷で楽しんでいたウサギ狩りをオーストラリアでも行いたいと考えます。

イギリスから野生ウサギを取り寄せ、1859年のクリスマスに13匹のヨーロッパ野生ウサギを敷地内へ放したと国立オーストラリア博物館では記録しています。

結果はすぐに現れました。

1866年には、バーワン・パークだけでハンターが1年間に約1万4,000匹を仕留めています。

それでも繁殖を抑えることはできませんでした。

50年ほどで大陸の大部分へ

オーストラリアはウサギにとって、あまりにも住みやすい環境でした。

餌になる植物が豊富。

穴を掘れる土地が広大。

そしてヨーロッパにいたような天敵も少ない。

繁殖力の高いウサギは驚異的な速度で広がっていきました。

1880年にはマレー川を越えてニューサウスウェールズ州へ。

1886年にはクイーンズランド州へ到達。

1894年にはナラボー平原を越え、西オーストラリア州まで到達しています。

CSIROは、1859年を起点とする野生個体群が約70年間でオーストラリア国土の約70%へ広がったとしており、知られている哺乳類の侵入例として世界でも極めて速い拡大でした。

ウサギが引き起こした被害

ウサギの問題は、農作物を食べるだけではありません。

影響内容
農業被害牧草や農作物を食べ、家畜と餌を競合する
植生破壊新芽や苗木を食べ、植物の再生を妨げる
土壌侵食植生が減ることで地表が露出し、風雨による侵食が進む
在来動物との競合餌や巣穴をめぐり在来動物と競合する
生息地の変化植物相そのものを変え、小動物の隠れ場所を減らす

ウサギが植物を食べ続けることで、樹木や低木の新しい世代がほとんど育たなくなる場所もあります。

CSIROによると、種類によっては1ヘクタールに1匹未満という低い密度のウサギでも、在来樹木や低木の再生を完全に妨げることがあるとされています。

2026年現在でも、農業上の損失と対策費を合わせた被害は年間最大約1億9,700万豪ドルと推定されています。

1950年には約6億匹

ウサギ問題が最も深刻だった時代には、その数は想像を超える規模になりました。

CSIROによると、1950年頃にはオーストラリア国内のウサギが約6億匹に達していたと推定されています。

現在のオーストラリア人口の20倍を大きく上回る数です。

農場によっては牧草がほとんど食べ尽くされ、経営を続けられなくなった場所もありました。

そこで人々は、射撃、罠、毒餌、巣穴の破壊など、あらゆる方法を使ってウサギを減らそうとします。

その中でも規模の大きさで知られているのが、西オーストラリア州の巨大なフェンスです。

巨大なラビット・プルーフ・フェンス

東から押し寄せるウサギが西オーストラリア州の農地へ入るのを防ぐため、1901年からラビット・プルーフ・フェンス(Rabbit-Proof Fence)の建設が始まりました。

第1号フェンスは、州南部から北西部まで約1,834キロ。

当時としては世界最長級の連続したフェンスでした。

ところが、大工事には大きな問題がありました。

フェンスが完成する前に、すでにウサギが反対側へ入り込んでいたのです。

そこで、さらに西側へ第2号フェンスも建設されました。

フェンスはウサギの侵入速度を抑える役割を果たしましたが、大陸からウサギを排除することはできませんでした。

「壁を造れば解決する」というほど、侵略的外来種の問題は単純ではなかったのです。

1950年、ウイルスでウサギを減らす

転機となったのが、生物学的防除でした。

CSIROの前身となる研究機関は、ウサギに致死的な病気を起こすミクソーマ・ウイルスの研究を行います。

1950年に本格的な野外利用が始まると、蚊などによって感染が急速に拡大しました。

ウサギの個体数は劇的に減少します。

これは哺乳類の害獣に対する世界初の成功した大規模な生物学的防除として知られています。

しかし、これで問題が終わったわけではありません。

ウサギ側には抵抗性が生まれ、ウイルス側にも毒性が弱い系統が現れ、1950年代後半から個体数が再び増加していきました。

次に導入されたウサギ出血病ウイルス

次に利用されたのが、ウサギ出血病ウイルスです。

CSIROなどによる長期間の研究を経て、1996年からオーストラリアで正式に生物学的防除へ利用されるようになりました。

特に乾燥地域では大きな効果があり、ウサギの数が大幅に減少しました。

2017年には、効果を高めるため新しい系統も全国的に放出されています。

ただしウイルスとウサギは互いに変化していくため、一度放出すれば永久に解決するわけではありません。

2026年現在も終わっていないウサギ対策

「1950年代にウイルスで退治した」と思われがちですが、ウサギは現在もオーストラリアに広く生息しています。

2024年には、今後も生物学的防除を持続させるための全国的な研究戦略が承認されました。

2026年6月には、オーストラリア政府、州・準州政府、研究者、農業関係者らが参加する全国ラウンドテーブルも開催されています。

現在の基本は、ウイルスだけに頼るのではなく、巣穴の破壊、フェンス、毒餌などを地域の状況に合わせて組み合わせる方法です。

2. ケイン・トード|害虫退治のために導入

ウサギが「狩りを楽しみたい」という理由で広がったのに対し、ケイン・トード(Cane Toad)は農業を助ける目的で意図的に導入されました。

日本語ではオオヒキガエルとも呼ばれます。

原産地は中南米。

現在ではオーストラリアを代表する侵略的外来動物のひとつですが、1935年当時はサトウキビ畑を守ってくれる「救世主」になることが期待されていました。

サトウキビ農家を悩ませた甲虫

クイーンズランド州では19世紀後半からサトウキビ産業が拡大しました。

ところがサトウキビの根を食べる甲虫の幼虫による被害が大きな問題になります。

当時は現在ほど農薬が発達していません。

そこで注目されたのが、害虫を食べてくれる動物を利用する「生物学的防除」でした。

ケイン・トードはハワイなどでサトウキビ害虫対策に利用されており、オーストラリアでも導入が検討されます。

1935年、ゴードンベールで2,400匹を放す

1935年6月、サトウキビ試験局の昆虫学者レジナルド・マンゴメリー(Reginald Mungomery)がハワイから繁殖用のケイン・トードを持ち帰りました。

場所はケアンズの南にあるゴードンベール(Gordonvale)。

囲いの中で繁殖させ、同年8月には約2,400匹の若いケイン・トードが周辺へ放されました。

現在の感覚では驚きますが、国立オーストラリア博物館によると、放出前にオーストラリアの生態系へ与える影響を調べる十分な研究は行われていませんでした。

さらに、「そもそもケイン・トードが問題の甲虫を効果的に食べられるのか」という基本的な点も十分に検証されていませんでした。

肝心の害虫退治にはほとんど役立たなかった

結果として、ケイン・トードは期待された働きをしませんでした。

理由のひとつは、サトウキビ害虫の生活場所です。

幼虫は地中で根を食べます。

成虫はサトウキビの茎の高い場所にいることがあります。

地上を移動するケイン・トードにとって、どちらも簡単に食べられる相手ではありません。

つまり退治するはずだった害虫には届かず、オーストラリアの別の生き物を食べながら増えていったのです。

最大の問題は強力な毒

ケイン・トードの大きな武器が毒です。

成体は肩の後ろに大きな毒腺を持ち、刺激を受けると毒性のある分泌物を出します。

卵やオタマジャクシを含め、生活史のさまざまな段階で毒性があります。

問題なのは、オーストラリアの在来捕食者の多くがこの毒に適応していないことです。

オオトカゲ、ヘビ、ワニ、フクロネコなどがケイン・トードを食べ、死亡することがあります。

特にキタフクロネコでは、ケイン・トードの侵入後に急激な個体数減少が確認された地域があります。

ケイン・トードによる「致死的な毒の摂取」は、オーストラリアの連邦環境法で主要な脅威のひとつとして位置付けられています。

クイーンズランド州から西オーストラリア州まで拡大

1935年にはケアンズ周辺の限られた地域にいたケイン・トードですが、その後、生息域を大きく広げました。

現在はクイーンズランド州の広い範囲だけでなく、ニューサウスウェールズ州北部、ノーザンテリトリー、そして西オーストラリア州北部にも定着しています。

特にオーストラリア北部では、世代を重ねるにつれて移動能力の高い個体が分布の先端部に集まり、拡散速度そのものが速くなったことも研究されています。

ひとつの農業地域へ放した動物が、数十年後にはオーストラリア北部を横断してしまったのです。

ケイン・トードに適応し始めた動物もいる

自然界では興味深い変化も起きています。

一部の在来動物は、ケイン・トードを避けたり、毒の少ない部分だけ食べたりするようになっています。

キールバックと呼ばれるヘビは、ケイン・トードの毒に比較的強いことで知られています。

アカハラクロヘビでは、ケイン・トードがいる地域の個体群で毒への抵抗力が高くなったり、頭部が小さくなったりする変化も研究されています。

頭が小さければ、大型で毒量の多いケイン・トードを飲み込めません。

人間が突然持ち込んだ新しい動物に対し、在来種側でも進化的な変化が起きていることになります。

ケイン・トードを全滅させる方法はある?

残念ながら、2026年現在、オーストラリア大陸全体からケイン・トードを取り除く現実的な方法はありません。

分布域があまりにも広大だからです。

オーストラリア政府も現在は、単純な「全滅」を目指すより、特に被害を受けやすい在来種や重要地域を守ることを重視しています。

地域単位で成体やオタマジャクシを除去したり、水場への侵入を防いだり、在来捕食者がトードを避けるよう学習させる研究なども行われています。

1935年にわずかな地域から始まった問題が、90年以上たった今も続いていることになります。

3. 野生猫|普通のイエネコと同じ種類

3つ目は野生猫です。

ここでいう野生猫は、ライオンやヤマネコのような別種のネコではありません。

人間の家庭で飼われているイエネコと同じ種類です。

人から餌をもらわず、野外で繁殖し、狩りや死肉によって生きている個体をオーストラリアでは一般に野生猫と呼びます。

体が特別に巨大なわけでもありません。

ところがオーストラリアの小型動物にとっては、非常に効率のよい捕食者です。

猫はヨーロッパ人の入植とともに到来

猫はヨーロッパ人の初期入植とともにオーストラリアへ持ち込まれました。

1788年のファースト・フリートでも、シドニー・コーブへ猫が持ち込まれた記録があります。

船ではネズミ対策として猫を飼うことが一般的でした。

入植地でも、食料庫などをネズミから守るために猫は役立ちました。

もちろん当時の人々は、数百年後に猫がオーストラリア固有の小型哺乳類にこれほど大きな影響を及ぼすことを予想していませんでした。

ウサギやネズミ対策として猫まで放された

さらに皮肉なのは、19世紀後半に増えすぎたウサギやネズミを減らす目的で、猫が農村部へ意図的に放されたことです。

つまり人間が導入した外来動物を抑えるため、さらに別の外来動物を導入した地域がありました。

ところが猫はウサギやネズミだけを狙うわけではありません。

小型の有袋類、在来ネズミ、鳥、トカゲ、カエルなども捕食します。

結果として、ウサギ対策として放した捕食者が新たな環境問題になりました。

19世紀末には大陸規模へ

猫は入植地から徐々に内陸へ広がっていきました。

現在のオーストラリア政府の2024年野生猫脅威軽減計画では、19世紀の後半にウサギやハツカネズミの増加を抑える目的で農村部へ放された猫も、野生個体群の拡大を助けたとしています。

19世紀末までには、大陸の広い範囲へ野生猫が広がっていました。

現在は熱帯雨林、森林、草原、湿地、砂漠など、ほぼあらゆる陸上環境に生息しています。

年間15億匹を超える在来脊椎動物を捕食

野生猫の問題を数字で見ると、その規模がわかります。

オーストラリア政府による現在の推計では、野生猫は毎年、15億匹を超える在来の哺乳類、鳥、爬虫類、カエルを捕食しています。

さらに昆虫などの無脊椎動物も年間約11億匹を捕食すると推定されています。

1匹の猫がすべて希少動物を食べるわけではありません。

しかし絶滅寸前の動物では、毎年わずかな個体が捕食されるだけでも大きな問題になります。

特に体重4キロ以下の地上性哺乳類や、地面で生活・繁殖する鳥、爬虫類などが影響を受けやすいとされています。

20種を超える哺乳類の絶滅に関与

野生猫は単に「在来動物をたくさん食べる」というだけではありません。

オーストラリア政府は、猫が20種を超えるオーストラリア固有の哺乳類の絶滅に関与したとしています。

現在も200種を超える国の絶滅危惧種にとって、猫の捕食が脅威になっています。

ビルビー、ベトン、バンディクート、ナンバットなど、日本人旅行者にはあまり知られていない小型有袋類も含まれます。

オーストラリアが世界でも特に多くの哺乳類絶滅を経験した国となった背景には、猫やキツネなどの外来捕食者が大きく関係しています。

野生猫と飼い猫はどう違う?

生物学上は同じ動物です。

野生猫飼い猫
種類イエネコイエネコ
生活人に依存せず野外で繁殖人が飼育
食料主に狩りや死肉人から与えられる餌
野生動物への影響広大な自然地域で捕食外へ自由に出る場合は野生動物を捕食することがある

飼い猫だから狩りをしないわけではありません。

餌を十分に与えられていても、本能的に小動物を捕まえる猫はいます。

そのためオーストラリアの自治体や州・準州では、飼い猫の登録、マイクロチップ、不妊手術、夜間外出制限、敷地外へ出さない飼育など、地域によってさまざまな制度が設けられています。

具体的なルールは自治体によって大きく異なります。

現在の野生猫対策

野生猫についても、大陸全体から完全に排除することは現実的ではありません。

そこで重要になっているのが、希少動物が暮らす場所を優先的に守る方法です。

2024年には新しい野生猫捕食脅威軽減計画が策定されました。

現在行われている対策には次のようなものがあります。

方法内容
毒餌地域や条件を選び、野生猫を対象とした餌を使用
罠従来型に加え、人工知能を利用した識別技術も研究・導入
フェンス猫やキツネが入れない保護区をつくる
島からの排除条件が整った島では野生猫を完全に除去
継続監視カメラなどを利用して侵入や個体数を確認

特に効果がわかりやすいのが、外来捕食者がいない島や大型フェンス内の「安全地帯」です。

かつてその地域から消えたビルビーやベトンなどを再導入する保全事業も行われています。

2026年現在、国の野生猫対策専門チームが州・準州政府、研究者、保全団体などと連携しながら対策を進めています。

ウサギ・ヒキガエル・猫だけではない

オーストラリアで問題になっている外来動物は、この3種類だけではありません。

動物主な問題
アカギツネ小型哺乳類、鳥、爬虫類などを捕食
野生化したブタ土壌や湿地を荒らし、作物や動物を食べ、病気を媒介
野生化したヤギ植物を食べ、在来動物と競合し、土地を荒らす
野生化したラクダ乾燥地域の水場や植生に影響
シカ植生を食べ、森林や農地へ影響
コイ河川や湿地の水質・底質に影響

オーストラリア農業・水産・林業省では、脊椎動物の害獣による農業上の損失と対策費だけでも、年間約10億豪ドルに達すると推定しています。

そこには、生物多様性の損失や文化的価値への影響は含まれていません。

善意の導入でも結果は予測できない

3つの動物を並べると、外来種問題の興味深い共通点が見えてきます。

ウサギは「狩猟を楽しむため」。

ケイン・トードは「農業害虫を減らすため」。

猫は「ペットやネズミ対策」、そして地域によっては「増えたウサギやネズミを減らすため」。

どれも「オーストラリアの自然を破壊しよう」と考えて導入されたわけではありません。

むしろケイン・トードや農村部へ放された猫の場合、人間が抱えている問題を解決しようとしていました。

ところが生態系は非常に複雑です。

一種類を追加したとき、誰を食べ、誰に食べられ、何と競争し、数十年後にどこまで広がるかを完全に予測することはできません。

この歴史は、現在の外来種対策にとって大きな教訓になっています。

だからオーストラリアの検疫は厳しい

日本からオーストラリアへ旅行した人なら、空港の検疫がかなり厳しいと感じたことがあるでしょう。

食品、植物、木製品、種、動物製品、泥の付いた靴やアウトドア用品など、細かく確認されます。

これは単に農業を守るためだけではありません。

オーストラリア独自の生態系を、新たな害虫、病気、外来生物から守るためでもあります。

島大陸であるオーストラリアは、海という天然の障壁によって多くの外来生物から守られてきました。

しかし飛行機、貨物船、国際物流が発達した現在では、人間が新しい侵入経路をつくっています。

一度定着してしまえば、ウサギやケイン・トードのように100年近く対策を続けても完全には取り除けない場合があります。

だからこそ、侵入した後に退治するより、最初から入れないほうがはるかに効率的なのです。

旅行者にも関係するバイオセキュリティ

旅行者が外来種問題を難しく考える必要はありません。

最も重要なのは、オーストラリア入国時の申告を正しく行うことです。

特に食品や植物・動物由来の製品を持っている場合、「多分大丈夫だろう」と自己判断せず、対象になるものは申告します。

申告したからといって、必ず没収されるわけではありません。

係官が確認し、持ち込み条件を満たしていればそのまま入国できます。

また海外で使用した登山靴、キャンプ用品、釣り具などには土や種、微小な生物が付着している可能性があります。

オーストラリア旅行前にはきれいに洗っておくと安心です。

空港で見る「バイオセキュリティ」という言葉の背景には、ウサギやケイン・トードをはじめとした長い外来種問題の歴史があります。

外来動物の歴史から見えるオーストラリア

オーストラリアの外来動物問題を振り返ると、強烈な数字が並びます。

1859年に放された13匹の野生ウサギ。

その子孫は大陸を横断し、1950年頃には約6億匹。

1935年にクイーンズランド州で放された2,400匹のケイン・トード。

害虫駆除にはほとんど役立たなかった一方で、現在はオーストラリア北部の広大な地域へ拡散しました。

そして人間とともに大陸へ来た猫。

現在、野生猫は毎年15億匹を超える在来脊椎動物を捕食し、20種を超える在来哺乳類の絶滅にも関与したとされています。

どれも最初から現在の結果が予想されていたわけではありません。

だからこそ、これらの歴史は単なる「昔の失敗談」ではありません。

生き物を新しい環境へ移すと何が起こるのかを示す、現在進行形の巨大な実例なのです。

そして、外来種対策は「悪い動物を退治する」というほど単純な話でもありません。

ウサギも、ケイン・トードも、猫も、自分の意思でオーストラリアへ来たわけではありません。

人間が持ち込み、その環境に適応して繁殖しただけです。

問題の中心にあるのは動物そのものではなく、人間が生態系へ与えた変化と、その結果をどう管理するかということです。

カンガルーやコアラだけを見ていると気付きにくいですが、オーストラリアの自然を理解するうえで、外来動物の歴史は避けて通れません。

そして次にオーストラリアの空港で厳しい検疫を受けたときには、「また同じことを繰り返さないための仕組みなんだ」と少し違った見方ができるはずです。

よくある質問

オーストラリアのウサギはもともと在来種ですか?

いいえ。ヨーロッパアナウサギは外来種です。飼育用のウサギは1788年のファースト・フリートでも持ち込まれましたが、現在の大規模な野生個体群は、1859年にビクトリア州で放されたヨーロッパ野生ウサギを大きな起源としています。

本当に13匹のウサギから増えたのですか?

国立オーストラリア博物館では、トーマス・オースティンが1859年のクリスマスにバーワン・パークで13匹のヨーロッパ野生ウサギを放したとしています。すでにほかの地域にもウサギは存在しましたが、この放出が大規模な野生個体群拡大の決定的なきっかけになったと考えられています。

ラビット・プルーフ・フェンスは本当にウサギを止められましたか?

一定の効果はありましたが、完全には止められませんでした。西オーストラリア州の第1号フェンスは約1,834キロに及びましたが、完成前にすでに西側へ入ったウサギが確認され、さらに第2号フェンスも建設されました。

なぜケイン・トードをオーストラリアへ持ち込んだのですか?

クイーンズランド州のサトウキビを食害する甲虫を減らすためです。1935年にハワイから導入され、ゴードンベール周辺で繁殖させた後、約2,400匹が放されました。しかし狙っていた害虫の防除にはほとんど役立ちませんでした。

ケイン・トードには触っても大丈夫ですか?

ケイン・トードは毒性のある分泌物を出すため、むやみに触らないほうが安全です。またオーストラリアには外見の似た在来のカエルもいるため、観光客が自分で捕まえたり駆除したりするのは避けましょう。

ケイン・トードは現在も増えていますか?

はい。クイーンズランド州からノーザンテリトリーを経て西オーストラリア州北部まで広がっています。大陸全体から完全に排除する実用的な方法は現在なく、重要な生態系や被害を受けやすい在来種を重点的に守る対策が行われています。

野生猫は飼い猫とは違う種類ですか?

同じイエネコです。人に依存せず野外で繁殖し、狩りなどによって生活している個体を野生猫と呼びます。飼い猫でも屋外を自由に歩く場合は野生動物を捕食することがあります。

野生猫はどれくらいオーストラリアの野生動物を食べていますか?

オーストラリア政府の現在の推計では、野生猫は毎年15億匹を超える在来の哺乳類、鳥、爬虫類、カエルを捕食し、さらに約11億匹の無脊椎動物を食べています。200種を超える国の絶滅危惧種にとって脅威になっています。

なぜオーストラリアの空港は動植物の持ち込みに厳しいのですか?

農業だけでなく、オーストラリア独自の生態系を海外の害虫、病気、植物、動物などから守るためです。一度外来生物が定着すると、ウサギやケイン・トードのように長期間対策しても完全に排除できない場合があります。

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